保健師に臨床経験は必要か!?【病院で看護師として働いてから保健師を目指そうとしている学生さんへ】

保健師という仕事

私は新卒後、臨床経験のないまま行政保健師として働きました。その後、転勤族の夫と結婚し、行政保健師を辞め、病院での看護師や、産業保健師も経験しました。臨床経験がないことで私自身が感じたこと、臨床を経験してから保健師として働いた先輩の声なども紹介したいと思います。

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ほんとうは臨床経験を積んでから保健師として働きたかった

私が学生時代に考えていた人生設計では、保健師の養成学校を卒業後(当時は看護大学が今よりずっと少ない時代でした)、大学病院や総合病院に3年ほど勤務した後に、行政保健師になりたいと考えていました。

病院でしっかりと看護師としての臨床経験を積んだ後に、保健師として勤務すれば地域と病院の連携についても理解が深まるだろうし、医学や看護の知識は地域でも必要とされているだろうと思ったからです。また、臨床経験のないままに地域にでるのは、何だか「専門性に欠けている」というイメージもありました。自信をもって働きたかったのだと思います。

行政保健師の枠は狭き門

ですが、自治体での保健師の採用枠は狭き門です。希望する自治体の規模によっては採用がない年もあります。本命は保健師として働きたいと考えているのに、例えば3年間臨床経験を積んでから受験しようと思っても、その時には当面の間、希望する自治体で採用予定がないという状況も困ります。

そのため、私は保健師として就職希望する自治体にいる知人にお願いをして、保健師の採用予定についての情報を得ることにしました。知人は行政職でしたが、その自治体の同期の保健師にきいてみてくれたようです。すると「今年は特に保健師の採用枠を大きく増やすらしい。でも、来年以降は充足するので欠員がなければ、採用しないかも」との情報を得ました!!

この重大な情報を得て、私は臨床経験を積むことより、保健師としてすぐに勤務することを優先にしなければ、地元で保健師として働くチャンスは巡ってこないかもしれないと考えました。

実際に希望する自治体で働く保健師から情報を得るのはお勧めです。翌年の退職予定の保健師数を把握しているので、来年はこのくらいの募集があるだろうという見通しがたてられるからです。

実際に就職希望していた自治体ではその年に例年よりも大きな採用枠でしたが、翌年以降は1名というかなり厳しい状況に転じていました。

行政職で採用された知人に公務員受験のコツを伝授され、無事に合格しました。専門科目は受験生の点数は似たり寄ったりなので、それ以外の科目で点数差をつけるのがコツです。それについてはまた、別記事に書きたいと思います。

実際に臨床経験がないまま働き、新人時代に考えていたこと・・・

 希望する自治体で行政保健師としての勤務が始まりました。当時は現在では珍しい「地区担当制」ということもあり、仕事の幅は広く、乳幼児から高齢者の全ての住民を対象にした保健活動を展開します。わからないことばかり・・自分の知識経験の不足を否応なしに感じます。

 そんな時に思うのが「もし、臨床経験があったらもっと自信をもって仕事をしていたのかもしれない」ということでした。また、もともと臨床を経験したいという思いもあってか、臨床を経験している保健師の先輩のほうが優れているのではと考えてしまっていました。

看護での臨床経験のある保健師のほうが優れているのか?

臨床を経験したかったけど、できなかった。経験していたら、もっと優秀な保健師であったかもしれない・・・という思いにとらわれてしまった私はその思いを先輩たちにぶつけてみました。それぞれの先輩の生の声はこちら。。。

病棟で1年間の看護師経験のある保健師先輩Aさん「1年しか経験してないから、病棟の看護師の大変さはわかったけど、今の仕事に生かせているかってきかれれば、大して生かせてないと思うよ~。循環器にいたけど、心電図の波形よめないし・・・。循環器にいたからわかるよね?!って、同僚保健師にきかれたときは困ったよ」

3年間の看護師経験のある保健師先輩Bさん「臨床経験がないことで劣等感をもつ必要ないよ~。臨床経験ってイメージするほど特別なものじゃないよ。 看護実習やってきたでしょ。 基本的にはそれと同じだから」

10年間の看護師経験のある保健師先輩Cさん「私に言わせると臨床は5年以上やってなんぼの世界。それ以下だと臨床経験とは言えないな。」

3人3様の意見でした。実際に私が後輩の立場で3人の先輩の仕事ぶりをみて、臨床経験の長いC先輩が際立って優秀な保健師であると感じたことはありませんでした。3人とも素敵な尊敬できる先輩です。

ただ、Cさんは病院の状況をよくわかっているので、退院して地域にもどるという相談に関しては自信をもって対応されており、「この相談に関しては私の強みが生かせる」とご自分でも話されていたのを記憶しています。

実際に自分が看護師として働いてみて感じたこと

行政保健師として勤務した後に、看護師として働くのはレアケースなのですが、行政保健師を退職後、人手不足の病院から声がかかり、1年ほど看護師として勤務する経験をしました。

実際に自分が病棟で働いてみて感じたことは保健師も看護師も同じ看護職ではあるものの、求められる専門性はまったくの別物ということです。

臨床経験はないよりはあったほうがいいとは思いました。でも、必ず必要かときかれれば、そうではないかもしれません。これは特に行政保健師の場合です。医務室も兼務するような産業保健師や、養護教諭として働く場合は必要に思います。

緊急時の切羽詰った雰囲気を知っているだけで、動き方が違うと感じるからです。

ですが、行政保健師の場合はそのような状況は少ないです。でもゼロではありません。

看護師の道を究めるのなら、C先輩がいうように最低5年以上なのでしょう。ですが、あくまで行政保健師として働くことを考えているのならその年数にこだわる必要はないと思います。

看護師経験がなくても、素晴らしい同僚保健師が何人もいました。非常に勉強熱心で医学の知識が豊富にありました。

臨床経験があれば、その勤務していた病棟での知識は豊富かもしれません。ですが、地域ではいろんな問題がありますから、整形外科に看護師として勤務していたけど、精神科のことはさっぱり・・・ということもあるでしょう。

そのため、結局はこれまでの臨床経験に頼ることなく、イチから勉強しなければいけない場面も多々あります。

結論・・・臨床経験はないよりはあったほうがいい!だけど、必須ではない

結論的には、臨床経験はないよりはあったほうがいいと思います。多少なりとも自分の自信になります。臨床での緊迫感を経験しておくことはいいと思います。

行政保健師の場合、緊迫感のある場面は病棟よりは少ないのですが、ゼロではありません。

市役所に訪れた市民の方や、同じ職場で働く職員が具合が悪いとき「保健師さん!」と呼ばれることもあります。また、家庭訪問や教室開催時にもそのような状況になることもあります。そんな時、臨床経験があると場慣れしている分、落ち着いて行動できるように思います。

でも、必須ではないとも感じます。同じ職場で勤務していた後輩保健師は、もともと医師を目指していたこともあり、非常に勉強熱心で医学の知識が豊富でした。彼女は臨床経験がありませんでしたが、交通事故にあった市民の方の応急措置を、救急車が到着するまでの間、きちんと対応していました。また、家庭訪問や健康相談も、しっかり医学の知識の裏づけをもって対応することができる人でした。

いろんな職場を渡り歩いて思ったのは要は「経験年数にあぐらをかかず、専門職としてしっかり勉強をし続けることが大切」ということです。

机上だけの勉強は、実際の経験に劣ると言われそうですが、看護師であれ、保健師であれその職場によって求められる知識が違います。資格はとってからがスタートですから、その資格にふさわしい人になれるよう追い求め続けるものなのでしょう。

臨床経験を得る機会があれば是非経験してから保健師に就業するのが、気持ち的には安定すると思います。しかし、求人のタイミングの関係で臨床経験を積むことができない場合はむしろそれをバネにして、理想の行政保健師像を追い求めるのもよいと思います。あくまで、私の個人的な考えです。参考になれば幸いです。